マルチキャスト(Multicast)とは、あらかじめ指定した複数の相手にだけ、同じデータを一度の送信で届ける通信の方法のことです。全員に送るブロードキャストと、一台ずつ送るユニキャストの、ちょうど中間にあたります。
現実世界に例えると、マルチキャストは希望者だけが受け取る回覧のようなものです。全戸に配るのでもなく、一軒ずつ訪ねるのでもなく、手を挙げた家にだけ届きます。送る側は一度渡すだけで済みます。
マルチキャスト図解
三つの送り方の比較
| 方式 | 宛先 | 100台へ送ると | 回線への負担 |
|---|---|---|---|
| ユニキャスト | 特定の1台 | 100回送る | 台数に比例 |
| マルチキャスト | 希望した相手 | 1回で済む | ほぼ一定 |
| ブロードキャスト | 同じ網の全員 | 1回だが全員に届く | 不要な相手にも及ぶ |
グループに参加して受け取る
仕組みの中心はここにあります。受け取りたい機器が「このグループの配信が欲しい」と申し出ることで、初めてその機器へ届くようになります。この申し出をやり取りする取り決めがIGMPで、参加と離脱を管理しています。希望しなかった機器には流れません。
専用のアドレスを使う
宛先の指定のしかたも独特です。個々の機器のアドレスではなく、グループを表す専用の範囲のアドレスを宛先に書きます。IPv4では224から239で始まる範囲が割り当てられています。つまり「誰に」ではなく「どの配信に」を指定する形になっています。
途中で枝分かれさせる
効率の良さの正体です。送り手は一本だけ送り出し、途中のルーターやスイッチが必要な方向へ複製して枝分かれさせていきます。受け手が何台いても、送信元から出ていく通信は一本のままで済むため、配信元の負担が人数に左右されません。
社内の一斉配信で使われる
実際の用途を挙げます。社長の訓示を全社へ生中継する、多数のパソコンへ同じOSの内容を一度に配る、といった社内での一斉配信が代表例です。金融市場の相場情報を多数の端末へ配る用途や、IP方式のテレビ配信でも使われています。
インターネットでは使いにくい
最大の制約です。途中の経路にあるすべての機器が対応している必要があり、インターネット全体では対応が行き渡っていません。そのため、一般向けの動画配信ではマルチキャストではなく、ユニキャストで配りつつCDNで負荷を分ける方式が主流になっています。
届いたか確かめない
性質として押さえておく点です。相手が受け取れたかどうかを確認せずに流しっぱなしにするUDPが使われるため、届かなかったぶんは送り直されません。映像や音声のように、多少の欠けが許される内容に向いており、ファイルの受け渡しには適しません。
設計と管理に手間がかかる
導入前に知っておくべきことです。ネットワーク機器ごとに設定が必要で、対応していない古い機器が一台混じるだけで、そこから先へ届かなくなります。設定を誤ると、本来届くべきでない範囲へ通信があふれ、ネットワーク全体を圧迫することもあります。



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